【ご質問】 中国では債権の消滅時効期間は2年と聞いています。債権が時効にかからないようにするには、どうすればいいのでしょうか。 |
1.中国の時効制度
中国では、「民法通則」が民事債権の「訴訟時効」(日本の消滅時効)について原則的な規定を置いています。これによると、債権の訴訟時効期間は原則として2年です(「民法通則」第135条)が、以下の債権の訴訟時効期間は1年とされています(同第136条)。
- 身体傷害を理由とする賠償請求権
- 品質不合格の商品を販売し、それを告知していない販売者に対する請求権
- 賃借料の請求権
- 寄託物の紛失・毀損を理由とする賠償請求権
なお、他の法律に別段の規定がある場合はそれを従います。例えば、国際貨物売買契約や技術輸出入契約に基づく債権の訴訟時効期間は、「契約法」第129条の規定により4年に延長されています。
2.時効の中断
時効については、日本と同様、中国でも「時効の中断」が認められています。「時効の中断」というのは、時効の進行を中断し、改めて最初から時効を進行させる制度をいいますが、中国の「民法通則」は、以下の3つを時効の中断事由として規定しています(第140条)。
- 訴訟の提起
- 債務者に対する要求
- 債務者による履行の承諾
したがって、例えば売掛債権が時効にかかりそうになっている場合には、上記のいずれかにより時効の進行を中断する必要がありますが、(a.)の訴訟の提起は時間も費用もかかりますし、(c.)の履行の承諾は相手方が同意しないと得られませんから、(b.)の債務者に対する要求(催告)をするのが通常です。
3. 「催告」の方法
日本では、このような場合、内容証明郵便で「催告書」を送るのが通常ですが、中国には内容証明郵便制度はありませんから、催告したことを後日証明できるようにするために、「催告書」の原本を郵送するとともに、そのコピーを電子メールで送信する等の方法が採用されることになります。
債務者が行方不明の場合は、公示により催告することができますが、公示は、国家レベル又は債務者所在地の省レベルの影響力がある新聞等でしなければなりません(「民事案件の審理における訴訟時効制度の適用に関する若干問題の規定」第10条第1項第3号)。
なお、催告は、債務の保証人にもすることができます。保証人に対して催告をした場合は主たる債権者に対する関係でも時効が中断されます(「『民法通則』の執行貫徹における若干問題に関する意見(試行)」第173条第2項)。
4.「催告」の効力
日本でも「催告」は時効の中断事由とされていますが、債権者は、催告後6ヶ月以内に訴訟等を提起しなければならず、「催告」を繰り返しても、時効の完成を阻止することはできません。
これに対し、中国の「民法通則」の下では、「催告」はそれだけで時効を中断することができます。したがって、「催告」をした後、売掛債権が再度時効にかかりそうになったら、債権者は、改めて催告をすることによって時効を中断することができます(「『民法通則』の執行貫徹における若干問題に関する意見(試行)」第173条第1項)。
(H&H中国法令情報No.42(2015/6/23)掲載)