【中国法務コラム】売買契約における所有権留保条項

【ご質問】 中国で売買契約に所有権留保特約を付けた場合、日本法の下での所有権留保と同様の効力が認められますか。

【回答】
所有権留保は、売買契約において目的物が買主に引渡された後も一定の条件が充たされるまで(たとえば、売買代金が完済されるまで)、売主がその所有権を留保する制度です。売買代金が分割払いされる場合等に、売主の債権の担保として利用されます。

  • 所有権留保に関する規定

 中国の「民法典」第641条は次のように規定して、売買の目的物について所有権を留保することを認めています。

「当事者は、売買契約において、買主が代金の支払い又はその他の義務を履行しない場合、目的物の所有権が買主に属する旨を約定することができる。」

これによると、中国では、所有権留保特約が無制限に認められるように見えますが、そうではありません。所有権留保特約については、 一定の制限が加えられています。

  • 不動産売買契約への不適用

 まず注意しなければならないのは、不動産の売買契約については所有権留保特約をしても効力が認められないことです。「最高人民法院の売買契約紛争案件の審理における法律適用問題に関する解釈(2020年修正)」(以下「司法解釈」という)第25条は、次のように規定しています。

「売買の当事者が契約法第641条の目的物の所有権の留保に関する規定を不動産に適用することを主張した場合、人民法院はこれを支持しない。」

したがって、不動産の売買代金が分割払いされる場合には、売主は所有権留保以外の方法で代金の支払いを担保することを検討しなければなりません。

  • 売主の取戻権とその制限

 所有権留保特約がある場合において、目的物の所有権が移転する前に買主が以下のいずれかの行為により売主に損害を及ぼしたときは、売主は目的物を買主から取り戻すことができます(「民法典」第642条第1項)。

(1)約定に従って代金を支払わない場合
(2)約定に従って特定の条件を完了させない場合
(3)目的物の売却、質入れ又はその他の不当な処分をした場合

しかし、次の場合には、売主は取戻権を行使することはできません(「司法解釈」第26条)。

(a)買主が目的物の代金総額の75%以上を支払っている場合
(b)買主が目的物を売却、質入れ又はその他の不当な処分をし、第三者が目的物の所有権又はその他の物権を善意取得した場合

上記(a)の制限は日本法にはない制限なので、特に注意する必要があります。

  • 買主の受戻権による制限

 売主が目的物を取り戻した場合であっても、買主は、取り戻しの原因となった事由を双方が約定し又は売主が指定した一定の期間内に解消すれば目的物を受け戻すことができます(「民法典」第643条第1項)。たとえば、買主が代金を期限に弁済しなかったために売主が目的物を取り戻したような場合でも、買主は、売主と交渉し、一定の期間内に約束の代金を支払えば、目的物を引き渡すように要求することができます。

受戻権を行使することができる「一定の期間」は、買主と売主が協議により合意するか又は売主が指定することができます。この受戻権行使期間内に買主が目的物を取り戻さない場合には、売主は目的物を別途再売却することができます(「民法典」第643条第2項)。換言すると、売主は、受戻権行使期間が経過するまで目的物を第三者に再売却することができません。この点も日本法とは大きく異なりますので、注意する必要があります。

  • 所有権留保の対抗要件

売主が目的物に対して留保する所有権について、登記をしていない場合には、善意の第三者に対抗できません(「民法典」第641条第2項)。この点も日本法とは大きく異なりますので、注意する必要があります。

  •  目的物の再売却と清算義務

 売主が取り戻した目的物を第三者に売却した場合、売主には清算義務があります。すなわち、売主は、再売却代金から、買主の未払代金及び必要な費用を控除した後も残額がある場合には、その残額を買主に返還しなければならず、不足部分がある場合には、買主が弁済をしなければなりません(「民法典」第643条第2項)。

  •  その他

所有権留保売買において、破産債務者が未だ所有権を取得していない財産については、破産債務者の財産から除外されます(「最高人民法院の『企業破産法』適用の若干問題に関する規定(二)(2020修正)」第2条第2号)。当該財産の権利者は、管財人を通じて当該財産を取り戻すことができます(「企業破産法」第38条)

所有権留保特約の合意をした場合において、目的物である動産を引き渡した後10日以内に所有権留保を登記したときは、売主は先に設定されている浮動抵当権に優先して弁済を受けることができます(「民法典」第416条、「最高人民法院の『民法典』の担保関連制度の適用に関する解釈」第57条第1項第1号)。

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