【中国法務コラム】「外商投資法」の概要

「外商投資法」の概要

外国投資者の中国における投資(外商投資)に関しては、1970年代末から80年代にかけて「中外合弁企業法」、「外資独資企業法」、「中外合作企業法」という三つの法律(以下合わせて「外資三法」という)が順次制定されました。「外資三法」は、外商投資を促進するための優遇措置を規定するとともに、中国企業の保護・育成を図るために外国企業の投資活動を制限する各種規制を規定していました。

これらの規制のうち、投資分野の規制、出資比率の規制、外貨収支均衡の要求等の規制等は、中国の経済発展に伴い逐次廃止されました。2016年には、外商投資企業の審査認可制度に代えて届出管理制度が採用され、「外商投資参入ネガティブリスト」に記載されていない外商投資企業の設立及び変更は、内資企業同様、直接登記機関に設立・変更の登記を申請し、登記完了後に商務部門に届出をすればよいことになりました[1]。また、優遇措置についても、2007年には「企業所得税法」により税制が統一され、外商投資企業に対する優遇税制が廃止されるなどの変更がなされました。

「外商投資法」は、このような流れを受けて、外商投資企業と内資企業の格差を解消するとともに、各種外商投資企業を統一的に管理することを目的とするもので、「外資三法」は、「外資投資法」が施行される2020年1月1日をもって廃止されることになっています。

「外商投資法」の規定のうち、注目される点をピックアップすると、以下のとおりです。

1.適用対象(第2条)
「外商投資法」は、外国の企業、個人又はその他の組織の中国における投資活動に適用されます。「投資活動」の中には、(1)外商投資企業の設立、(2)中国国内企業の株式、出資持分、財産持分等の取得、(3)新規プロジェクトへの投資等が含まれます。

2.参入許可前の内国民待遇とネガティブリスト(第4条)
「参入許可前の内国民待遇」とは、参入許可段階において外国投資者及びその投資に対して内国民待遇を保証するものです。ネガティブリストとは、外商投資について内国民待遇を行わず、商務主管部門等による参入許可制度を継続する投資分野を記載したリストです。外商投資関係の「ネガティブリスト」としては、「外商投資参入許可特別管理措置(ネガティブリスト)(2018年版)」と「自由貿易試験区外商投資参入許可特別管理措置(ネガティブリスト)(2018年版)」があり、自由貿易試験区の内外により規制分野が異なります。

3.外商投資企業による株式、会社債券等の証券の公開発行(第17条)
外商投資企業の株式の公開発行については、すでに「上場会社が外商投資に係わる場合に関する問題に関する若干問題」により規定されていますが、「外商投資法」が明文の規定を置いたことにより、外商投資企業の中国国内における資金調達方法がさらに拡充されることになると思われます。

4.出資、利益配当等の送金に関する規定(第21条)
外国投資者は、中国国内の出資、利益配当、資本収益、資産処分所得、ライセンス料、法に基づく補償又は賠償、清算所得等を人民元または外貨で法に基づき自由に中国国内外に送金することができるとされています。

5.強制的な技術移転の禁止(第22条)
米中貿易摩擦において強制的な技術移転が問題となっていますが、「外商投資法」は、行政機関が技術移転を強制することを明文で禁止しています。

6.地方政府の政策(第24条、第25条)
「外商投資法」は、地方政府が外商投資企業に対し法律、行政法規に根拠のない権利の制限、義務の増加、市場参入又は撤退の条件の設置、生産経営活動への干渉を明文で禁止しました。また、地方政府が外国投資者又は外商投資企業との間で行った政策的保証、各種契約を遵守すべきこと、国家、社会公共の利益を理由としてこれを変更する場合は、損失を補償しなければならないことを明記しています。

7.会社組織(第31条)
「外商投資法」は、会社の組織形態、組織機構について、「会社法」等の規定を適用すると規定しています。上述のとおり「外資三法」は廃止されますから、例えば、中外合弁企業の場合、これまでは董事会が最高権力機関とされていましたが、「外商投資企業」の下では、「会社法」の規定に従い、最高権力機関として株主会(一人会社の場合は株主)を設置しなければならないこととなりました。もっとも、この点に関しては経過規定があり、上記変更は「外商投資法」の施行後5年以内に行えばよいこととされています(第41条)。

8.投資情報の報告(第34条、第37条)
外国投資者または外商投資企業は、企業登記システム及び企業信用情報公示システムを通じて、商務部門に投資情報を報告しなければなりません。報告されていない場合、商務部門の命令に従い是正しなければならず、是正しない場合は10万元以上50万元以下の罰金に処せられることになります。

[1] 但し、「外商投資参入ネガティブリスト」に掲載されている企業の場合は、従前どおり、商務部門の審査認可を取得したうえで、登記機関において登記手続を行わなければなりません。

【臧晶】

(「H&J最新法令情報」 (No.62) 2019/7/3掲載)

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