【中国法務コラム】中国において労務派遣を利用する場合の注意点

【ご質問】当社中国子会社は、派遣社員の雇用を検討しています。中国において労務派遣サービスを利用する場合の注意点を教えてください。

【回答】
労務派遣の場合、企業は労務派遣会社との間で労務派遣契約を締結して派遣労働者を受け入れることになります。派遣労働者の報酬、勤務部署、雇用者数などについては、法律上一定の規制がありますので、注意する必要があります。

【解説】
2013年の改正「労働契約法」は、派遣労働者を保護するため、派遣会社の設立及び労務派遣の利用に関する規制を強化しました。これを受け、人力資源及び社会保障部は、2014年に「労務派遣暫定規定」を制定し、労務派遣制度についてさらに詳細に規定しています。

  • 契約関係

労務派遣の場合、派遣労働者は労務派遣会社(派遣元企業)との間で労働契約を締結し、派遣先企業との間では労働契約を締結しません。派遣先企業は、労務派遣会社との間で労務派遣契約を締結して派遣労働者を受入れることになります。労務派遣契約においては、派遣部署及び人数、派遣期間、労働報酬及び社会保険料の金額及び支払方法、契約違反の責任等を約定しなければなりません(「労働契約法」第58条、第59条、「労務派遣暫定規定」第7条)。

  • 利用条件

労務派遣を利用する場合、派遣先企業は次の条件を満たさなければなりません。

  1. 労働報酬

派遣先企業は、同一労働同一報酬の原則に従い、派遣労働者に対し、当該企業の同種部署の労働者と同一の労働報酬分配規則を適用しなければなりません(「労働契約法」第63条)。

  1. 勤務部署

労務派遣による雇用は補充的な雇用形式であり、臨時的、補助的又は代替的な勤務部署においてのみ実施することができます(「労働契約法」第66条、「労務派遣暫定規定」第3条)。

  1. 雇用者数

労務派遣の雇用者数は厳格に規制されていて、派遣先企業は、その雇用総数の10%を超えて派遣労働者の派遣を受けることはできません(「労働契約法」第66条、「労務派遣暫定規定」第4条)。

  • 派遣先企業の義務

派遣先企業は、次の各号に掲げる義務を履行しなければなりません(「労働契約法」第62条)。

  1. 国の労働基準を実行し、相応の労働条件及び労働保護を提供する。
  2. 派遣労働者の業務上の要求及び労働報酬を告知する。
  3. 時間外労働手当、業績報奨金を支払い、勤務部署と関連する福利厚生の待遇を提供する。
  4. 在職する派遣労働者に対し、勤務部署で必要とされる研修を行う。
  5. 労働者の使用を継続する場合、正常な賃金調整ルールを適用する。

なお、派遣先企業は、派遣労働者を他の企業に再派遣することはできません。

  • 派遣労働者の返還

次のいずれかの情況がある場合、派遣先企業は、派遣労働者を労務派遣会社に戻すことができます(「労働契約法」第65条、「労務派遣暫定規定」第12条)。

  1. 「労働契約法」第40条第3号(客観的状況の重大な変化を理由とする解除)、第41条(リストラ)に規定する事由がある場合。
  2. 派遣先企業が、法に従い破産を宣告され、営業許可証を取り上げられ、閉鎖、取消を命令され、繰上解散を決定し、又は経営期限が満了し経営を継続しない場合。
  3. 労務派遣契約が期間満了により終了する場合。

派遣労働者に「労働契約法」第42条に規定する事由がある場合(派遣労働者が職業病に罹患した場合、労災に遭った場合、妊娠した場合等)には、派遣先企業は派遣労働者を労務派遣会社に戻すことはできず、当該事由が解消するまで派遣期間を延長しなければなりません(「労務派遣暫定規定」第13条)。

派遣先企業と派遣労働者との間には労働契約がありませんから、派遣先企業は、派遣労働者を労務派遣会社に戻す際には経済補償金を支払う義務はありません。ただし、規定に違反して派遣労働者を戻した場合には、派遣先企業は労務派遣契約に基づき違約責任を追及されるほか、行政機関により処罰されることになります(「労働契約法」第92条、「労務派遣暫定規定」第24条)。

  • 他の名目での労働雇用

労務派遣に対する規制が上記のとおり厳しいため、労務派遣によるのではなく、業務をアウトソーシングする企業も少なくありません。ただ、使用者が請負、業務委託等の名目をもって業務をアウトソーシングした場合も、「労務派遣暫定規定」に従い処理する旨の明文規定(「労務派遣暫定規定」第27条)がありますので、派遣先企業が派遣労働者に対して指揮命令権を有するなど実質的に労務派遣と同視できるような状態になっていないか、注意する必要があります。

(「H&H中国最新法令情報」(No.53)  2017/9/11掲載 一部修正)

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