【質問】
フリーランスに業務を委託する場合に、取引条件を明示しなければならない取引とはどのような取引でしょうか。また、どのような事項を明示しなければならないのでしょうか。
【回答】
- 「特定受託事業者に係る適正化等に関する法律」(以下「フリーランス法」といいます)」によると、事業者がフリーランスに業務を委託した場合は、直ちに、一定の事項(取引条件)を書面又は電磁的方法によりフリーランスに明示しなければなりません。
- 事業者がフリーランスに明示すべき取引条件としては、委託した業務の内容、報酬の額、支払期日、業務委託をした日、給付の受領日・役務の提供日等があります。
- 取引の相手方が「特定受託事業者」(フリーランス)に該当するかどうかは、従業員を使用しているか否かが判断基準の一つとなります。そのため、フリーランスと取引をする際には、取引の相手方が「従業員を使用」しているか否かを判断するため、従業員の週所定労働時間及び雇用期間まで確認することが必要な場合があります。
【解説】
近年、働き方が多様化し、フリーランスという働き方が普及しています。ただ、業務を委託する事業者とフリーランスとの間には交渉力等に格差があり、フリーランスが不利な立場に置かれやすいという状況があります。このため、フリーランスに係る取引の適正化等を目的として「フリーランス法」が令和5年に制定され、令和6年11月1日から施行されました。
「フリーランス法」に関しては、同時に「公正取引委員会関係特定委受託事業者に係る取引等の適正化等に関する法律施行規則」(以下「公正取引委員会規則」といいます。)が制定、施行されています。また、令和6年5月31日には、公正取引委員会及び厚生労働省から「特定委受託事業者に係る取引等の適正化等に関する法律の考え方」(以下「考え方」といいます。)も公表されています。
「フリーランス法」によると、事業者が「特定受託事業者」(フリーランス)に「業務委託」をした場合は、直ちに、一定の事項(取引条件)をフリーランスに対し書面又は電磁的方法により明示しなければなりません(「フリーランス法」第3条1項)。 以下、この「フリーランス法」第3条1項が規定する取引条件の明示義務、いわゆる「3条通知」について説明します。
1. 取引条件の明示が要求される取引
「3条通知」は、事業者がフリーランスに「業務委託」をする場合に要求されますが、「フリーランス法」において「業務委託」とは、以下のいずれかに該当する行為をいいます(「フリーランス法」第2条3項)。
- 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
- 事業者がその事業のために役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
したがって、事業者が上記以外の業務委託をする場合には、「3条通知」をする必要はありません。
2. 契約条件の明示が必要な相手方
「3条通知」は、「特定受託事業者」(フリーランス)に対して業務委託をする場合に要求されます。
「フリーランス法」において「特定受託事業者」とは、「業務委託」の相手方である事業者であって、以下のいずれかに該当するものをいいます(「フリーランス法」第2条3項)。
- 個人であって、従業員を使用しないもの
- 法人であって、1人の代表者以外に役員がおらず、従業員も使用しないもの
「従業員を使用する」とは、1週間の所定労働時間が20時間上で、継続して31日以上雇用(又は派遣)されることが見込まれる労働者を雇用する(又は派遣労働者を受け入れる)ことをいうとされています(「考え方」第1部の1(1))。したがって、業務を委託する相手方がこれに該当しない場合には、「3条通知」をする必要はありません。
なお、「3条通知」が要求される業務委託事業者については、特段の限定はありません。業務を委託する事業者がフリーランスの場合であっても、業務委託の相手方がフリーランスの場合には「3条通知」をする必要があります。
3. フリーランスに明示すべき取引条件
フリーランスに「業務委託」をした場合、業務委託事業者は、以下の事項(取引条件)をフリーランスに明示しなければなりません(「フリーランス法」第3条1項、「公正取引委員会規則」第1条)。
① 業務委託事業者及びフリーランスの氏名、商号、名称等
② 業務委託をした日
③ フリーランスが行うべき業務(給付又は役務)の内容
④ フリーランスから給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
⑤ 検査をする場合は検査を完了する期日
⑥ 報酬の額及び支払期日
⑦ 現金以外の方法で支払う場合は支払方法
上記事項の内容を定められないことにつき正当な理由がある場合は、明示する必要はありません。ただし、当該事項の内容を定められない理由とその内容を定めることとなる予定期日を明示しなければならず、内容を定めた後は直ちに明示しなければなりません(「フリーランス法」第3条1項、「考え方」第2部第1の1(3)ケ(イ))。
なお、報酬の額(上記⑦)については、具体的な金額を明示することが困難なやむを得ない事情がある場合は、算定方法を明示すればよいことになっています(「公正取引委員会規則」第1条3項)。
4. 上記事項を明示する時期及び方法
フリーランスに「業務委託」をした場合には、「直ちに」、「書面又は電磁的方法により」、上記事項を明示しなければなりません(「フリーランス法」第3条1項)。
明示の時期については、「直ちに」と規定されていますから、一切の遅れは許されません(「考え方」第2部第1の1(2))
明示の方法のうち、「書面により」とは、書面を交付する方法によることをいい、ファクシミリへの送信もこれに該当するとされています(「考え方」第2部第1の1(5)ア)。 「電磁的方法」とは、電子メールその他の受信者を特定して情報を伝達する電気通信による方法、又はUSBメモリー等の電磁的記録媒体に記録して交付する方法をいいます(「公正取引委員会規則」第2条1項、「考え方」第2部第1の1(5))。
5. 留意点
事業者が、フリーランスに業務を委託する場合は、まず、取引の相手方が「フリーランス法」にいう「フリーランス」(特定受託事業者)に該当するか否かを確認する必要があります。特に「従業員を使用」しているか否かについては、従業員の週所定労働時間及び雇用期間まで確認する必要がありますので、留意する必要があります。
【執筆者】
弁護士 青笹真理
【参照法令等】
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適性化等法)Q&A」