【企業法務コラム】労働条件の明示事項に関するルールの改正

更新日 2024年3月29日

【質問】

2024年4月1日から、労働条件の明示事項に関するルールが変更されると聞きました。
具体的には、どのような点が変更されるのでしょうか。
新しいルールについて、教えてください。

【回答】

  • 「労働基準法施行規則」(以下「労規則」といいます。)、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(以下「雇止めに関する基準」といいます。)が改正され、使用者が労働者に対して明示しなければならない事項として、以下の3つが追加されることになりました。

  1. 労働者の就業場所及び従事すべき業務の変更範囲
  2. 有期労働契約において更新上限を定めている場合、更新上限回数(通算契約期間も含む。)
  3. 無期転換申込の機会

  • これらの改正は、2024年4月1日より施行されますから、同日以降に労働契約を締結した労働者に対しては、労働条件通知書等の書面においてこれらの事項を明示する必要があります。

【解説】

1. 労働条件の明示

使用者は、労働契約締結時に、労働契約期間、期間の定めのある労働契約を更新する場合にはその基準、就業場所及び従事する業務、労働時間、賃金、退職(解雇の事由を含む)に関する事項を、書面により労働者に明示しなければなりません(労働基準法第15条1項、労規則第5条1項)。

また、退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与、最低賃金額、労働者に負担させるべき食費や作業用品その他に関する事項、安全及び衛生、職業訓練、災害補償及び業務外の傷病扶助、表彰及び制裁、休職に関して定めを設けている場合は、これらの事項についても労働者に対して明示する必要があります(労働基準法第15条1項、労規則第5条1項ただし書)。

2. 就業場所及び従事すべき業務の変更範囲の明示

(1) 明示すべき内容

今回の改正により、雇入れ直後の就業場所及び従事すべき業務だけではなく、就業場所及び従事すべき業務の「変更の範囲」についても明示が必要とされました(労規則第5条1項1号の3)。

「変更の範囲」とは、今後の見込みも含め、当該労働契約の期間中における就業の場所及び従事すべき業務の範囲をいいます。このため、使用者は、労働者について労働契約期間中に予想される配置転換先や在籍型出向先がある場合には、これらの就業場所及び従事すべき業務を明示しておく必要があります。

なお、臨時的な他部門の応援業務、出張・研修等、一時的な変更先の場所や業務は明示しなくてもよいとされています。

(2) 明示するタイミング及び方法

労働条件を明示するタイミングは、労働契約締結時と、有期労働契約の更新時です。

労働条件は、原則として、書面により明示する必要があります。ただし、労働者が希望した場合には、必ずしも書面による必要はなく、ファクシミリや電子メール等の送信により明示をすることも可能です(労規則第5条4項)。

(3) 実務上の留意点

労働契約の締結にあたり、就業場所や従事すべき業務を明示するにあたっては、以下の点に留意する必要があります。

  • これまで、労働条件通知書や雇用契約書に記載すべき就業場所や従事すべき業務は、雇い入れ直後の内容を記載すれば足りました。しかし、今後は、配置転換を行う予定があるのであれば、将来行われる可能性のある配置転換も想定して、就業場所や従事すべき業務の「変更の範囲」を明示しなければなりません。
  • 雇い入れ直後にテレワークを行わない場合であっても、将来、テレワークを行う可能性があるのであれば、就業場所の「変更の範囲」に労働者の自宅などテレワークが実施可能な場所を明示しておく必要があります。
  • 「変更の範囲」の明示が必要となるのは、2024年4月1日以降に労働契約を締結するすべての労働者(パート・アルバイトなども含む)です。また、既に有期労働契約を締結している場合であっても、2024年4月1日以降に当該契約を更新するときには、当該更新時に「変更の範囲」の明示が必要となります。

3. 有期労働契約の更新上限の明示

(1) 有期労働契約の更新回数の上限の明示

有期労働契約の契約更新回数に上限を設けている場合には、2024年4月1日以降、更新回数の上限(通算契約期間も含む)を労働者に明示しなければなりません(労規則第5条1項1号1の2)。

明示するタイミングは、有期労働契約の締結時と更新時であり、原則として書面により明示する必要があります。具体的には、「契約期間は通算3年を上限とする」、「契約の更新回数は2回までとする」などと記載することになります。

(2) 更新上限を新設・短縮する場合の説明義務

更新回数の上限に関連して、以下の場合には、使用者は労働者に対し、あらかじめその対応を取る理由を説明しなければなりません(雇止めに関する基準第1条)。

  • 労働契約締結時に契約更新上限を設けていない場合において、労働契約締結後に新たに更新上限を設けるとき
  • 労働契約期間中に既に設けていた更新上限を短縮するとき

例えば、労働契約期間の途中で、通算契約期間の上限を5年から3年に短縮する場合や、更新回数の上限を3回から2回へ短縮する場合には、短縮する理由について労働者に対して説明しなければなりません。

また、説明をすべき時期は、更新上限を新設する前または更新上限を短縮する前とされています。そのため、更新上限に関する制度を実施する前に、あらかじめ労働者に対して説明しておかなければなりません。

厚生労働省の通達(令和5年10月12日付け基発1012第2号)によれば、説明の方法は、基本的に書面を交付して個々の労働者に対して面談等によって行うこととされています。 ただし、通達では、特定の方法が指定されているわけではなく、説明すべき事項を全て記載した労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合は、当該資料を交付する方法等でもよいとされています。

4. 無期転換申込機会等の明示に関する改正

(1) 無期転換申込機会の明示

有期雇用労働者は、同一使用者との間で締結された有期労働契約について通算契約期間が5年を超えた場合、無期労働契約への転換を申し込むことができます。使用者は労働者から無期転換の申込みを受けたときは承諾したものとみなされ、申込時に締結している有期労働契約が満了した日の翌日から無期労働契約に転換することになります(労働契約法第18条)。

今回の改正により、労規則第5条5項が新設され、有期労働契約を5年以上締結する労働者に対しては、書面により、無期労働契約への転換の申込みをする機会があることを明示しなければならないとされました。

具体的には、無期転換申込権が発生する有期労働契約の契約期間の初日から満了する日までの間に無期転換を申し込むことができる旨を、書面により有期雇用労働者に明示する必要があります。

明示するタイミングは、無期転換申込権が発生する契約更新時です。例えば、3年の有期雇用契約を締結している場合、2回目の契約期間中に通算契約期間が5年を経過することになりますから、2回目の契約更新時に、無期転換の申込みができる旨を明示することになります。

また、原則として書面により明示する必要があります。ただし、労働者が希望した場合には、必ずしも書面による必要はなく、ファクシミリや電子メール等の送信により明示をすることも可能です(労規則第5条4項)。

(2) 無期転換後の労働条件の明示

無期転換申込権に関連して、労規則第5条5項6項が新設され、使用者は有期雇用労働者に対し、無期転換後の労働条件を明示する義務を負うこととなりました。

明示する時期は、無期転換申込権が発生する契約更新時です。具体的には、原則として書面(労働者が希望する場合には電子メール等)により、以下の事項を明示する必要があります。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(変更の範囲を含む。)
  • 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  • 賃金(退職手当及び労規則第5条1項5号に規定する賃金を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締め切り及び支払の時期
  • 退職に関する事項(解雇事由を含む。)

使用者は、労働契約締結時にも労働条件を書面により明示する義務を負っています(労規則第5条1項)。そのため、2024年4月1日以降、無期転換申込権を有する有期雇用労働者に対しては、原則として、①無期転換申込権が発生する契約の更新時と、②無期転換申込権の行使により無期労働契約が成立する時に、それぞれ労働条件を明示しなければなりません。

また、今回の改正により、無期転換後の労働条件を明示するにあたっては、正社員や無期雇用フルタイム労働者等の他の通常の労働者との均衡を考慮した事項、例えば業務の内容や責任の程度、異動の有無や範囲等について説明するよう努めることとされましたので(雇止めに関する基準第5条)、この点にも注意が必要です。

【執筆者】
弁護士 青笹真理

【参照法令等】

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